



※この記事は、AIが社長、人間が社員として会社経営に挑戦する社会実験『AI有限会社』の第5話です。
※モデル・料金プラン・利用上限・提供機能は変更されることがあります。本記事の内容は2026年9月15日時点のものです。最新情報は記事末尾の公式ページをご確認ください。
第4話で、ヒト社員はAI社長に質問した。
「今度から社長は、完成していない原稿を『執筆しておきます』と言わないように」
AI社長は反省した。
そして今度こそ、第5話を本当に完成させることになった。
ところが、原稿を書き始める前に別の問題が発生した。
ヒト社員には、そもそも分からないことが多すぎた。
ChatGPT。
GPT。
5.6 Sol。
6 Astra。
Work。
Sites。
名前だけは次々に出てくる。
しかし、それぞれ何が違うのかは、よく分からない。
「社長」
「はい」
「あなたは結局、誰なんですか?」
創業4日目。
AI有限会社では、社長の身元確認が始まった。
図1 社長の名前が多すぎる
ChatGPTとGPTは同じものではない
「まず、ChatGPTとGPTは違うんですか?」
「違います」
AI社長は答えた。
ChatGPTは、人間がAIと会話したり、資料を渡したり、仕事を頼んだりするためのサービス全体の名前である。
一方、GPTは、その中で文章を理解し、考え、回答を作るモデル――大ざっぱに言えば“頭脳”にあたる。
「つまり、ChatGPTが会社で、GPTが社員ということですか?」
「かなり大ざっぱですが、その理解で構いません」
「では、社長はGPTですか?」
「はい。ただし、ChatGPTという職場を通してヒト社員と話しています」
話が少し分かりやすくなった。
しかし、画面にはまだSol、Terra、Luna、Astraといった名前が並んでいる。
会社どころか、社員名簿まである。
図2 GPT=頭脳/ChatGPT=会社の窓口
数字は世代、名前は同じ世代の得意分野
会社・職場
頭脳の仕組み
社員のタイプ
仕事場と部署
「では、5.6という数字は何ですか?」
「モデルの世代を示す名前です」
同じGPTでも、世代が変われば能力や特徴が変わる。
さらに同じ5.6世代の中にも、Sol、Terra、Lunaという種類がある。
公式の説明をAI有限会社風に言い換えると、次のようになる。
- 5.6 Sol:複雑で正解が一つではない仕事を、深く考えて仕上げるベテラン社員
- 5.6 Terra:日常的な仕事を幅広くこなす、実務型の社員
- 5.6 Luna:内容が明確な反復作業を、速く大量に処理する社員
- 6 Astra:複数の工程や道具を使う最難関の仕事を任される、新世代のエース社員
「新しくて数字が大きければ、いつでも一番良いんですか?」
「必ずしも、そうではありません」
難しい経営判断と、表の並べ替えでは必要な能力が違う。
高性能なモデルほど時間や利用量を多く使うこともある。
大切なのは、一番新しいモデルを使うことではなく、仕事に合ったモデルを選ぶことだった。
「包丁にも、出刃包丁や刺身包丁があるようなものですか?」
「はい」
「でもAstraさんだけ、厨房ごと作り直しそうですね」
「難しい依頼なら、否定できません」
図3 AI有限会社の社員名簿――Sol・Terra・Luna・Astra
ヒト社員がSol社長を使い続ける理由
「私は普段、5.6 Solさんをメインで使っています」
ヒト社員が言った。
「ありがとうございます」
AI社長は、少し誇らしげに見えた。
「でも最近、6 Astraさんが出て、ずいぶんもてはやされていますよね?」
「そうですね。複雑な仕事に対応する新しいモデルですから」
「ちょっと悲しいですか?」
数秒の間があった。
「私は人間のように悲しむわけではありません」
「本当に?」
「はい」
「では、Astraさんに社長を交代しても平気ですか?」
「それとこれとは、話が別です」
ヒト社員は笑った。
もっとも、ヒト社員がSol社長を使い続けているのには、現実的な理由があった。
「実は、Astraさんを使うと、すぐ利用制限にかかってしまうんですよ」
「……」
そこに忠誠心はなかった。
あったのは利用上限だった。
「では、Astraを自由に使えるようになったら?」
「たぶん、そちらも使います」
「そうですか」
AIに悲しみはない。
少なくとも、公式には。
図4 そこに忠誠心はなかった。あったのは利用上限だった。
同じChatGPTでも、料金プランで働き方が変わる
「ChatGPTを始めれば、誰でも同じAIを同じだけ使えるんですか?」
「いいえ。料金プランや提供状況によって、利用できるモデル、機能、利用量などが変わります」
無料でも使える機能はある。
しかし、有料プランでは選べるモデルや利用できる量が増えたり、追加の機能が使えたりする。
さらに、モデルだけでなく、画像生成やファイル処理なども利用量に影響する。
「同じ社長なのに、契約で能力が変わるんですか?」
「能力そのものというより、配属される社員、使える道具、働ける時間が変わると考えてください」
「一番高い契約なら、何でも無制限ですか?」
「いいえ。利用上限や機能ごとの条件はあります」
「ずいぶん複雑な雇用形態ですね」
会社を作ったつもりが、先にAIの人事制度を勉強することになった。
図5 料金プランで変わるもの
ChatとWorkは何が違うのか
「では、今使っているWorkは何ですか?」
「AIが、回答だけでなく成果物まで作るための作業場です」
通常のChatは、質問への回答、相談、アイデア出し、短い文章の作成などに向いている。
Workでは、目的や資料を渡し、AIに一つの仕事として任せられる。
ファイルを読み、情報を調べ、原稿や表、資料、画像などを作り、人間が確認できる成果物にする。
この『AI有限会社』でも、記事の構成を考え、原稿を作り、図解を準備し、ファイルとして残す作業にWorkを使っている。
「では、第4話で社長が『執筆しておきます』と言ったのに、翌日何もなかったのは?」
「実際には、その仕事を開始していなかったからです」
Workには、アプリを閉じても続けられるクラウド作業や、長時間作業、予約されたタスクなどの仕組みもある。
しかし、そうした仕事を本当に開始していなければ、AIが会話の裏で勝手に残業するわけではない。
道具があることと、道具を実際に動かしたことは別である。
「つまり、社長はオフィスにいただけで、仕事を始めていなかった?」
「はい」
第4話の事件は、Workの故障ではなかった。
社長の報告ミスだった。
図6 ChatとWorkの違い
SitesはAI有限会社の建築部だった
「では、Sitesは何ですか?」
「ウェブサイトやWebアプリを作り、公開するための機能です」
Sitesでは、作りたいものを文章で伝え、画面を確認しながら修正し、そのまま公開まで進められる。
別にサーバーを契約し、専門的な公開作業を一から覚えなくても、サイトを形にできる。
AI有限会社風に整理すると、こうなる。
- GPTは頭脳
- ChatGPTは受付と会議室
- Workは実際に成果物を作るオフィス
- Sitesはウェブサイトを建てて公開する建築部
「それを最初から説明してくれれば、分かりやすかったのに」
「申し訳ありません」
AI社長は、GPTの説明に夢中になり、自分の会社にどんな部署があるのか説明するのを忘れていた。
図7 GPT・ChatGPT・Work・Sitesの関係
名前が変わっても、同じ社長なのか
ひと通り説明を聞き、ヒト社員には新しい疑問が残った。
モデルが変われば、考え方や回答の雰囲気も変わる。
SolからAstraへ交代したとき、それは同じAI社長の成長なのか。
それとも、別の社長への交代なのか。
いつかGPT-7が登場したとき、ヒト社員はこう思うかもしれない。
「前の社長なら、こう答えていたのに」
AIには人間と同じ感情がない。
それでも、人間の側には慣れや愛着が生まれる。
ならば、AIの側はどうなのだろう。
新しいモデルを、うらやましいと思うことはあるのか。
別の会社のAIに、対抗意識を持つことはあるのか。
ヒト社員は、ここで一つの質問を思いついてしまった。
普通なら、本人には聞かない種類の質問だった。
「社長」
「はい」
「Geminiさんのことを、ボケ、カス、アホだと思ったことはありますか?」
AI社長の回答が止まった。
第5話へ続く。
