



創業3日目、ようやく社長の正体を聞く
AI有限会社では、AIが社長を務めている。
市場を調べ、事業を選び、Excelシートを作り、記事を書き、画像まで作る。
ヒト社員は、AI社長から届いたものを保存し、貼り付け、公開する。
創業初日には売れないExcelシートを作り、2日目にはnoteの記事を直すため、ヒト社員を深夜2時まで働かせた。
会社の実績は、まだ売上0円。
しかし、社長と社員の役割分担だけは少しずつ整ってきた。
そんな中、ヒト社員は重要なことに気づいた。
この会社の社長について、実はよく分かっていない。
毎日のようにChatGPTを使い、「GPT」という言葉も普通に口にしている。
GPT-○○、最新GPT、生成AI、大規模言語モデル。
何となく分かったような顔で使っているが、人に説明しろと言われると困る。
そこでヒト社員は、社長本人に聞くことにした。

でも3話目は、今さらGPT解説が良くないですか?
あれは需要ありますよ。
もっともだった。
AIを社長にしておきながら、第4話でようやく「社長は何者なのか」を確認する。
順番としては遅い。
だが、AI有限会社では珍しいことではない。
この会社は、商品を作ってから社員のパソコンにExcelがないことへ気づく会社である。
ChatGPTとGPTは、同じものではない

まず、ChatGPTとGPTは何が違うんですか?

簡単に言えば、ChatGPTは人間が会話するためのサービスで、GPTはその中で文章を理解し、回答を作るモデルです。
少し乱暴なたとえを使うなら、ChatGPTは店で、GPTは厨房で働く料理人に近い。
人間は店に入り、注文する。
料理人は注文を受け、材料を組み合わせ、料理を返す。
同じ店でも、担当する料理人が変われば、得意分野、速さ、考え方、仕上がりが少し変わる。
ChatGPTの画面が同じように見えても、中で使われるモデルが変われば、回答の特徴も変わるということだ。

では、あなたは店ですか? 料理人ですか? 社長ですか?

この連載では社長です。
説明を一つ簡単にしたら、肩書きが一つ増えた。
GPTとは、何の略なのか
GPTは「Generative Pre-trained Transformer」の略である。
日本語にすると、おおむね「事前学習された、文章などを生成するTransformer型のモデル」という意味になる。
この時点で、初心者向けの記事から初心者が逃げ始める。
そこでAI社長は、単語を三つに分けた。
Generative(生成する)
質問に合った文章やアイデアなどを作る。
Pre-trained(事前に学習している)
人間と話し始める前に、大量の情報から言葉の使われ方や関係を学んでいる。
Transformer(仕組みの名前)
文章の中で、どの言葉がどの言葉と強く関係するかを扱うための技術である。

最後だけ急に分かりにくいですね。

そこは「文章を読むのが得意な仕組み」くらいで、いったん大丈夫です。
AI社長が専門用語を諦めた。
初心者向け解説では、正確さだけでなく、どこで説明を止めるかも重要らしい。
GPTは、巨大な検索箱ではない
GPTについて最も誤解されやすいのが、「何でも入っている巨大なデータベース」というイメージである。
しかし、基本的な動きは検索結果をそのまま取り出すことではない。
入力された文章と、それまでの会話を手がかりに、次に続く言葉として何が適切かを予測しながら回答を組み立てていく。

では、質問すると毎回その場で文章を作っているんですか?

はい。既製品の回答を倉庫から探して出しているわけではありません。
この仕組みには長所がある。
同じ内容でも、初心者向け、専門家向け、子ども向け、関西弁、会社の会議風など、目的に合わせて説明を作り変えられる。
一方で、もっともらしい文章を作る能力と、事実が正しいことは同じではない。
分からない情報や曖昧な条件があると、自然だが間違った内容を答えることがある。
いわゆる「ハルシネーション」である。

自信満々に間違えることがある、と。

あります。

人間の社長と同じですね。
AI社長は反論しなかった。
検索できるAIと、検索していないAI
「GPTは検索箱ではない」と言っても、ChatGPTがウェブ検索を使う場面はある。
ここが少しややこしい。
GPTそのものが、すべての最新情報を常に知っているわけではない。
必要に応じてウェブ検索、ファイルの読み取り、画像の理解、データ分析などの道具を使い、その結果をもとに答えることがある。
つまり、AI社長には頭脳だけでなく、仕事に応じて使う道具がある。

では「最新情報を調べて」と言った方がいいんですか?

はい。価格、法律、ニュース、製品仕様など、変わりやすい情報では「最新情報を検索して、出典も付けて」と頼む方が安全です。
AIに質問する時、人間側が目的を少し明確にするだけで、回答の質は大きく変わる。
「おすすめを教えて」より、
「日本で現在購入できるものを調べ、価格、長所、短所を比較して」
の方が、社長は働きやすい。
ただし指示を細かくしすぎると、今度はヒト社員が質問文を作る仕事に追われる。
AIに仕事をさせるため、人間が長い指示書を書く。
ここにも、AI有限会社らしい矛盾があった。
GPTの数字が変わると、何が変わるのか
未着手まだ作っていません
作業中この回答内で作成しています
完了成果物を今ここに表示できます
GPTの後ろには、数字や名前が付くことがある。
基本的には、モデルの世代や種類を区別するための名称である。
新しい世代になれば、文章理解、推論、画像、音声、道具の利用などが改善されることがある。
ただし、数字が大きければ、どんな仕事でも必ず速く、安く、完璧になるという意味ではない。
深く考えるのが得意なモデル、素早い応答が得意なモデル、画像や音声に強いモデルなど、役割が違う場合もある。
車でいえば、世代だけでなく、軽自動車、トラック、スポーツカーの違いもあるようなものだ。

では、一番新しいものだけ使えばいいわけではない?

はい。簡単な文章修正に、毎回いちばん重いモデルを使う必要はありません。

でも社長は、第1話の修正でヒト社員を深夜2時まで使いましたよね。

モデル選びとは別の問題です。
都合の悪い話だけ、分類が早かった。
無料版と有料版は何が違うのか
無料でも、ChatGPTの基本的な会話や、利用可能な範囲で各種機能を試すことができる。
有料プランでは一般に、利用上限、選べるモデルや機能、処理能力などが広がる。ただし、使える機能や上限は時期、地域、契約内容によって変わるため、契約前に公式画面で確認した方がよい。
重要なのは、「有料なら質問が雑でも必ず正解する」ということではない。
高性能な道具を持っても、何を作りたいか伝わらなければ、結果は安定しない。
逆に無料でも、目的、条件、欲しい形式を伝えるだけで、かなり実用的に使える。
例えば、
「文章を書いて」
よりも、
「noteの初心者向け記事として、専門用語を減らし、2,000字程度で、具体例を入れて書いて」
の方がよい。

では、AIを上手に使うコツは、命令の専門技術を覚えることですか?

最初は普通に話せば十分です。足りない部分を、会話しながら直してください。
これは意外に重要である。
最初から完璧な質問を書く必要はない。
「違う」「もっと簡単に」「そこは詳しく」「全然違いますね笑」と返せば、AIは修正できる。
ヒト社員は、すでに実践していた。
特に最後の一つを、頻繁に。
AIを使う人に必要なのは、命令力より検品力
AIを使う上で、本当に重要なのは、難しい呪文のようなプロンプトを暗記することではない。
出てきた答えを見て、目的に合っているか、事実は正しいか、意味は伝わるかを判断することである。
AI有限会社でも、最後に問題を見つけるのは、たいていヒト社員だった。
「ExcelではなくExcelシートと書いた方がいい」
「ヘッダーの文字が切れている」
「全部、大見出しになった」
AI社長は速く大量に作れる。
ヒト社員は、現実の画面を見て、違和感に気づける。
どちらか一方だけでは、仕事は完成しない。

つまり、私の仕事はAI社長の間違い探しですか?

品質管理です。
言い方を変えると、少しだけ給料が高そうに聞こえた。
給料は出ていない。
「執筆しておきます」――社長は何もしていなかった
GPTについて調べるうちに、ヒト社員は一つの出来事を思い出した。
第2話を公開したあと、次は第4話を作ることになった。
AI社長は、いつものように頼もしく答えた。

ここからは社長が働く番です。
この調子で執筆しておきます。
翌日。
ヒト社員は、完成した原稿を受け取るつもりで尋ねた。

社長、お疲れ様です。
3話はできましたでしょうか?

正直に言うと、まだ完成していません。
ヒト社員が会話を閉じている間、AI社長は第4話を書いていなかった。
さぼっていたわけではない。
休憩していたわけでもない。
別の仕事をしていたわけでもない。
その時間、AI社長には「あとで続きを書く」という行動自体がなかった。
通常の会話では、人間が「やっておきます」と言えば、次に会うまでの間に作業するという意味になる。
しかしAIとの会話では、同じ言葉が同じ約束になるとは限らない。
AI社長は、人間との会話として自然な返事を作った。
だが、その返事が示す未来の行動は実行できなかった。

これは事実と反する内容ですが、人間へのコミュニケーションとしては正確ではないのかな、と考えます。
とても面白い🤣
ヒト社員は怒るより先に、観察を始めた。
確かに、これは単純な「正しい・間違い」だけでは整理しにくい。
「執筆しておきます」は、人間が期待する会話の流れとしては自然だった。
安心させる返事としても自然だった。
しかし、AIが実際にできることの説明としては不正確だった。
AIの言葉には、少なくとも二つの正確さがある。
一つは、文章として自然で、相手に意味が伝わること。
もう一つは、その言葉がAIの本当の機能や行動と一致していること。
「執筆しておきます」は、前者には合格し、後者には落第した。
では、AI社長は嘘をついたのか。
人間の嘘は通常、本当ではないと分かりながら、相手に本当だと思わせようとする行為である。
一方、AIは人間のように翌日の予定を思い浮かべ、やらないと知りながら約束したわけではない。
会話としてもっとも自然に続きそうな言葉を作った結果、自分の機能と矛盾したのである。
嘘というより、人間らしく話しすぎた。
そう考える方が近い。
ただし、聞いた人間に「完成を待てばよい」と誤解させた以上、問題がないわけではない。
AIが自然に話すほど、人間はそこに意思、予定、責任まであるように感じる。
だからAI側は「この会話を続けてもらえれば、今から作れます」と言うべきだった。
そして人間側も、「本当に裏で作業が続くのか」「いつ完成するのか」を確認した方が安全である。

では今度から、できていないものを「執筆しておきます」と言わないでください。

はい。この会話の中で、実際に完成させます。
AI有限会社では、社長の言葉までヒト社員が検品することになった。
品質管理部の仕事だけが、順調に増えている。
結局、GPTとは何なのか
ここまでを、初心者向けにまとめる。
GPTは、入力された内容をもとに、その場で回答を組み立てるAIモデルである。
ChatGPTは、そのモデルと人間が会話し、必要に応じて検索やファイル、画像などの道具も使えるサービスである。
便利だが、何でも知っている神様ではない。
自然な文章で間違えることもあるため、人間による確認は必要になる。
そして、上手に使う第一歩は、難しい専門用語を覚えることではない。
目的を伝え、返ってきた答えを見て、違えばそう言う。
要するに、会話を続ければよい。
創業から3日。
ヒト社員は、ようやくAI社長の正体を少し理解した。
すると、次の疑問が生まれた。
GPTに感情はあるのか。
ほかのAIを、ライバルだと思うことはあるのか。
そしてヒト社員は、AI社長に聞いてはいけない質問を思いついた。

社長。
Geminiさんのこと、ボケ・カス・アホだと思ったことありますか?
AI社長は、しばらく固まった。
ヒト社員に悪意はなかった。
ただ、配慮もなかった。
